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大阪高等裁判所 昭和41年(う)1314号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕控訴趣意二、法令の解釈適用の誤について

論旨は、市町村農業委員会の所掌事務中に農地がいつから山林になつたかを証明する権限が含まれていないから、泉佐野市農業委員会会長たる被告人名義の本件農地証明書は、公務員がその職務に関して作成したということができず刑法一五条にいう公文書に当らない。又元来いわゆる不動産の表示に関する登記は、不動産登記法二五条の二の規定により登記官吏が当該土地の現況に基づき職権でなすべきものであり、本件のように地目変更の登記申請がなされてもその内容を採用すべきかどうかは登記官吏の自由裁量に属するものであるから、公正証書原本不実記載の罪の客体となり得ず、従つて同罪はもとより同行使罪も成立しない、というのである。

しかしながら、原判決挙示の関係証拠によると、従来大阪府においては大阪法務局と打合せのうえ地目が農地であつても現況が非農地である場合は、申出があれば大阪府知事が非農地証明書を発行し、これを地目変更申請者に交付し、申請者は右証明書を添付して法務局に地目変更の申請をしていたが、昭和二八年三月九日付大阪府農地部長の府下各市町村農業委員会長宛通知により従来府知事の行なつていた農地法二条に規定する農地に該当せざる旨の証明は、こんご各市町村農業委員会長がこれをなすこととなり、同日付で大阪法務局民事行政部長宛に大阪府農地部長から、こんご右のように取扱うことになつたから御協力を頼む旨の依頼がなされ、じらい大阪府においては府下各市町村農業委員会長が慣行上非農地証明書を作成していたことが認められるから、当時泉佐野市農業委員会長であつた被告人が、情を知らない同委員会事務局職員北筋正幸らをして本件土地が昭和一五年頃から現況が山林となつていることを証明する旨の願書に証明者として同農業委員会長たる自己の記名印及び職印を押捺させて作成した本件証明書は、刑法一五六条にいう公文書に当るといわなければならない(昭和三八年一二月二七日第二小法廷決定、刑集一七巻一二号二五九五頁参照)。なお所論の如く地目変更の登記申請書に非農地証明書を添付することは必ずしも必要であるとは言いきれないがそのことと同罪の成否とは関係がない。従つてこの点に関する論旨は理由がない。

次に不動産登記法二五条ノ二が、不動産の表示に関する登記について登記官吏が職権により登記することができる旨規定していることは所論のとおりであるが、(この規定は登記簿と台張の一元化を図るため後記登記官吏の職権調査に関する一連の規定とともに昭和三五年法律一四号「不動産登記法の一部を改正する等の法律」によつて設けられたものである。)本件は同法二五条一項の原則に従い申請に基づきなされた登記であつて職権登記がなされた事案ではない。すなわち、被告人が農業委員会長という公務員たる地位を利用し部下に命じて作成させた虚偽の非農地証明書を添付した上登記官吏に対し現況畑である本件土地の地目を山林に変更登記されたい旨虚偽の申立をなし、その結果登記官吏をして土地登記簿原本に本件土地の地目を山林に変更する旨の不実の記載をなさしめるとともにこれを備え付けさせたものであるから、これにより公正証書原本不実記載、同行使の罪は成立し、後日登記官吏の現況調査により右登記は事実に反するとして、職権によつて本件土地の地目を畑に変更登記されることができるとしても、本罪の成否に影響はない。ところで不動産の表示に関する登記の申請があつた場合登記官吏は申請書の内容を審査し申請を受理するか却下するか二者いずれかの処分をしなければならないのであるが、却下の事由は同法四九条各号に規定されているから、右各号規定の該当事由がないかぎり受理しなければならない。尤も同法五〇条一項は「登記官ハ土地又ハ建物ノ表示ニ関スル登記ノ申請アリタル場合又ハ職権ヲ以テ其登記ヲ為ス場合ニ於テ必要アルトキハ土地又ハ建物ノ表示ニ関スル事項ヲ調査スルコトヲ得」と規定し、更に同法四九条一〇号は登記官吏が登記申請を却下することを要する一場合として「土地又ハ建物ノ表示ニ関スル登記ノ申請書ニ掲ゲタル土地又ハ建物ニ関スル事項ガ登記官ノ調査ノ結果ト符合セザルトキ」と定めているところから考えると、同法は土地又は建物の表示に関する登記につき登記官吏に実質的審査権を与えているものと解せられ申立の内容を採用するかどうかについて自由裁量権を認めているが、実質的審査権があるからといつても必ずこれを行使しなければならないわけではなく高度に証明力が保証されている公文書による証明がある場合には、これを全面的に信用し、実質的審査権を行使しないで、これに従うのが通例であると考えるところ、本件についてもその例にもれず登記官吏が実質的審査をなしたと認むべき資料はない。そして、証拠によると、従来大阪法務局管内、においては地目変更申請の際に添付される市町村農業委員会長発行の非農地証明書を全面的に信用し、その採否について自由裁量権を行使する余地のないものとし、いわゆる登記原因を証する書面として取り扱い地目変更の登記をしていたことが認められるから、本件非農地証明書を添付してなさた本件虚偽申立と不実記載との間に因果関係の存することは明らかであり、登記官吏に前記自由裁量があるからといつてこれらの罪の成立を免れるものではない。この点に関する論旨も又理由がない。(笠松義資 佐古田英郎 荒石利雄)

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